西荻窪ほびっと村2階の満月洞で行われた忘年会だ。
その頃、すちゃらかしゃいにんぐはやっちゃんと俺の二人でやっていた。
忘年会の主催者から「時間をあげるから、ちょっくら歌ってみろ!」と誘われたので、
「へい、まいどおおきに!」と二つ返事で引き受けた。
まぁ楽しいことが好きな連中だから、絶対愉快なパーティーになるはずだと思っていたら、
なんと、ゲストで西岡恭蔵が歌うらしい。あの西岡恭蔵だ。
楽しみだ。彼の唄が近くで聴ける。
俺は一言でいいから、話がしたいなぁ・・・なんて秘かに思っていた。
俺を育ててくれた音楽人の中でも、特別な位置の人だからね。彼は。
ん~~~、ミーハーたっぷりでフォーク少年な、オレ♪
で、当日。やっちゃんからアクシデントを知らされる。
前夜に包丁で左手中指をキズつけてしまったというのだ。
爪の部分をかなり切ってしまったそうだ。
幸いなことに大事には至っておらず、カットバンでの止血状態でそのまま傷口がふさがれ
ば大丈夫という程度らしい。
だが、痛みはあり、とても動かせないとやっちゃんは言う。
コード弾きにしろ、フレーズ弾きにしろ、使えない指があるということは、気分的にも演
奏的にも影響がオオアリの大蟻食いだ。(指のハンデがあっても、J.Reinhardtのようにも
のすごいギターを弾く人や、手が大きく指の長い外国人ギターリストの中には、親指も使
って音を出す人はいる・・・。
どんな時でも、その時点の状態で最良の方法を見つける!ってことなのだね。)
やっちゃんは、「でも、大丈夫だよ。なんとかなるでしょう。」とマイペンライだ。
本人が言うんだから、まぁいいか!
悪い方には考えないことにした。
なもんで、早めにほびっと村に行き、3階の「ほびっと村学校」でリハーサルをやってい
た。だいたいの曲は決めていたが、二人でやる時のいつものパターンで、状況により曲は
流動的にやろうって思っていた。指のこともあるしね。
そんなカンジでのんびりやっていると、のっそりと男が入ってきた。ボンゴを抱えている。
「うわぉー! 西岡恭蔵だ!」
俺とやっちゃんは演奏が止まった。
妙な間の後、俺が「何か用ですか?」と聞く前に、西岡恭蔵が話しかけてきた。
「今日、いっしょにやってもいい?」
俺は息も止まった。
「そっそんな、恭蔵さんの方こそ、いいんですか?」
「もちろん。じゃ唄を聴かせてよ。」
熱いモノが、全身をジワジワと浸食してる。
それから、全曲通してリハを続けた。
彼は俺のペラペラの歌詞カードを見ながら、無表情でリズムを叩いていた。
時々、俺たちがモタツクと、彼の方から歩み寄って合わせてくれた。
信じられるか?
俺の唄をあの西岡恭蔵が一緒に演奏してるんだぜ!
西岡恭蔵/ディランにて |
本番で、俺はすっかりアガッテしまった。
やっちゃんのアクシデントもだけど、西岡恭蔵と一緒に演奏するというスーパーサプライ
ズに気持ちと体がバラバラになってしまった。
「歌詞間違えるなよ!」
「恭蔵さんの音と合ってるか?」
「やっちゃんの指は・・・」
「レレレ・・・今どこやってるんだ・・・?」
あぁ・・・もうちょっといいところを見てほしかった聴いてほしかったヨ・・・
やっちゃんは指をかばって無難に弾こうとはせず、感情にまかせて弾く方法に切り換えて
るみたいだ。時々、ミストーンが出るけど、起伏があり気持ちが伝わる音の流れになって
いるから、ケンチャナヨだ。
西岡恭蔵のボンゴは、控えめだけどよく聴こえて歌いやすい。時々アクセントやオカズを
入れて、からかってくれる。初めての共演奏だけど、大きな包み込みを感じる。
今日は、ほとんどゆったり目の曲なので選曲は大正解だ。
俺以外はノープロブレム。
最後の唄は「1980」にした。
12月ってこともあったし・・・
俺たちにも西岡恭蔵にも、大事な人、大きな存在の人・・・、JOHN。
NEW YORKのことを東京で俺たちが歌う。
歌ってる。
すちゃらかしゃいにんぐと西岡恭蔵・・・
こうして不幸な始まりの80年代が、不毛のまま終わりに近づいていた。
1999年、西岡恭蔵は愛妻の三回忌の前日に、自死を選び、俺たちの前から消えていった。
1988年12月、彼の50年間の人生の中での一瞬の出逢いだった。
死にたいねなんて 言わないで
夜明けのバスに とびのろう
みんなが まっている
昨日の海へ 行くんだよ
―――西岡恭蔵/君の窓から
とても晴れた日だった。 たくさんの人が集まり、 ステージでも客席でも歌ってた。 |
●この日の演奏曲。●
1.寂しきホーボー~D.W.WASHBARN
2.SWEET HEART NIGHT
3.WAY TO THE MOON
4.Mr.K
5.SANFRANCISCO BAY BLUES
6.サイフはからっぽ
7.1980
*文中、敬称は省略させていただきました。
《営業2課 じゅんぼう》
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