いつも、まっすぐ授業にはでないで、駅の近くの喫茶店に寄り道して、そこからスタンドバーに行きそのまま誰かの部屋に行って、酒を飲み昼過ぎまで寝てから、翌日も駅の近くの喫茶店に行き誰かが来るのを待って何人か集まると、またいつものようにスタンドバーへ出かけた。
最初は授業がどこで行われているのかも知らないで、違う学部の事務所の前に行って何もわからず途方に暮れていた。わからない自分を反省しないで、わからないからきちんと出ないで良いんだと自分勝手に決め付けてバイト先の友人と飲み屋に行っていた。
ある時自分が勝手に事務所の場所を間違えているのに気づき、その後はそれなりに授業に出るようにしたのだけど、それまで一カ月ほど出ていなかった結果、今さらわからない事が多すぎた。
初めて話をしたのはS木とS水で、たまたま座った席が近くて、なんとなく声をかけたら返事をしてくれた。それでもいつの間にか一緒によく話したりしていたのは川崎の研磨工場のせがれだった。鳥打帽に穴のあいた黒い傘をきちんと縛って腕に下げていた。足元はワークブーツだった。メガネの奥は結構温かみのある黒目がちだった。彼はあまり酒は飲まなかったが、なんやかやと独特の声と話し方で気になる人だった。ある時から急に授業に出てこなくなり、その界隈にも姿を見せなくなった。彼の家よりもっと南の方からきた男が彼をさがしに来たけれど、盛り場の喧騒とまばゆい灯りの中、北原ミレイの唄声を小脇に抱え宙点に蘇る力道山の空手チョップに喝采をおくり、彼は今も変わらずにいるだろう。
周りに知っている連中がいなくなってしまった。大体4年か5年たてば知っている人はいなくなる。ある時サングラスがトレードマークのI村から連絡があった。仕事を手伝って欲しいというj事だった。I村は途中から全く授業には出なくなり、飲み屋にはそれなりに顔を出してはいたが、仕事が結構遅くまでかかる事が多くてそんなに頻繁に合う事は無かった。土曜日だったか日曜日だったかを使いエロまんが週刊誌の増刊号を作るしごとだった。グラビアの写真は昔取ったのを使いまわす事にして、パラフィン紙を敷いて上からどこの部分を使うか設定する。やり方を教わって残りをやっつけるが、途中でダメ押しが出る。あまり上とかに空間が多いと、小さく見えるからギリギリまでもって行くか少しキレる位までにしてやった方がいいから。と、言われるそう言われるとその方がいい。その後ページの横の枠外の縦の入れる文章を書く。まんがの内容に合わせて美少女姉妹が~などと考えるのだがこれは難しい。I村には完全にかなわない。おっとその前にネームを貼る。ほとんど終わったらついでに投稿文も書く。しかしこれはえらいめんどくさい。文面を変えないといけないのがもう大変で。そう言えばこの時から10年近くたって外苑でバイトしてた時にBC関係の一冊の中で、愛読者の投稿ページに出てくる名前が全てその時バイトしていた外苑の店の関係者だった時はビックリした。という位担当者が書いているのが現状なのかと思ってしまう。
I村はそこのT山企画と云う編集プロダクションに学校へ入ってすぐに採用されて、同じ駅だったので仕事が忙しくなるとき以外は、授業もそれなりに出つつ、酒も付き合いつつと云うふうにしていたのだが、ある時仕事を辞めると言いだし、代わりにS山を社員で入れてT山企画を辞めた。それでも増刊号を作る仕事は別途受けていて、日曜日とか仕事をやっていた。それで時々手伝ってくれと電話が入って来たのだが、日曜だけで終わらないと事務所に月曜日の夕方に行ったりもした、するとS山がI村先生どうですかあ?などと嬉しいそうにねちねちと声をかけ、こちらの方にもおまえらなあこの投稿誰が校正したんだよお。などと云う。S山は口は非常に悪いのだが根は非常に寂しがりやでアパートに泊りに来いと言われて断るのにすごく困った事が何度もあった。おまえなあエロまんがってのはこうするんだよ。と云われてページを拡げて見せられた時はビックリした。さすがだと思った。その仕事のせいで社長のT山さんは何度か神田署に行ったらしい。
突然I村から電話があった。今亀有駅にいるという。駅前の喫茶店で待つように言って出かける。何事かと思うって聞いてみると、松戸にいる兄さんの所へ遊びに行こうと思うんだけど一人じゃ心もとないので一緒に行って欲しいとと云われた。一緒に行ったのはいいけれど、兄さんはまだ会社から戻っていないので、奥さんにことわり車を借りてドライブに行った。I村の田舎は山梨なので千葉県の事など何も知らない、わしの方も車なんかに乗った事はほとんどないのでどこに行ったらいいかわからず、適当にそこいらをウロウロして、いい時間になった頃あいにマンションに戻った。兄さんはすでに帰っていた。奥さんは腕によりをかけて海老とか肉とかの料理を作ってくれていた。男の子も3才くらいのかわいい盛り、兄さんは一流商事会社勤め、奥さんは料理上手かあ。なんか一人じゃ行きにくくてわしをさそったのかなあ、などと思ったりしている間に兄さんと将棋を指したり子供と遊んだり、なんも考えんと酒にもてあそばれてその場の状況に流されてしまっている。そんなんだからわしをさそったのかな。
I村とはゴールデン街のK路でよく飲んだ。ある時、I村が言いだした。「おれよお、踊り子がすきなんだよなあ。いいよなあ、踊り子って」 「I村さあ、おれ....」「おまえなんか、とっとと帰れ!」
ある時駅前の書店に入って、文庫本の背表紙を読んでいた。「出版業界最底辺日記」S山の日記を別の人が編集したものだった。途中にI村の事が書いてあった。高円寺でグラビアの子を交えて忘年会をやった。あるパーティであるやつがS山殴るというのを聞いてI村と一緒にゴールデン街のルカンまで逃げて来た。などと。そろそろI村とも会いたい。けれど連絡先がわからないK路も今はやっていない。S山に電話して聞いてみるか。「S山先生、昔懐かしいうさ公ですが、I村の連絡先教えて下さいませんか?」「なにい?うさ公だとお」
営業一課 すちゃらか・たまらん・うーたろう
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